皆さんこんにちは、シロネコ書房です。
昨月、運転免許を取得してから早1年を迎えまして、面倒臭がりながらも初回更新の手続きに行ってきました。
内容としては、簡単な更新書類の作成と、視力検査、写真撮影&2時間の法定教習。
……え?ただでさえ手続きの待ち時間長い上に、講習って2時間もあるの!?
なんて最初は驚きましたが、「運転経験の浅い奴らにこそきっちりと念をおしておきたい」という交通安全神の気持ちも分からなくはないので、こちらも至って真面目な姿勢で講習を受けてきました。
というか、「居眠りしたりスマホいじってたりすると再講習になりますよ」なんてクギ刺されちゃ、自ずと瞼もリフトアップしますよ……。(しかし中には、10時に初回講習受けて、終わったのが16時になった人もいるとか)
そんなこんなで無事新しい免許証を手に入れることが出来たわけですが、その講習で聞いた「高齢者と自動車運転」の話がなんとも衝撃的なものだったんです。
もうね、「もぅマヂ無理。じじイになったら免許返納しょ……」ってすごく思いました。
しわくちゃになった自分への備忘録的な意味合いもかねて、その内容を記録していきたいと思います。
高齢者と自動車運転
高齢者ドライバーを取り巻く環境
現在、70歳以上の高齢者は運転免許の更新時に、通常の手続きにプラスして「高齢者講習」を受けることが義務づけられています。
さらに75歳以上になると、上記の講習に加えて、状況判断の元となる「認知機能」の検査を受ける必要があります。それに合格しないと「認知症ではない」という医師の診断書を提出する義務が生じます。もちろん、認知症と判断されれば免許は取り消し or 停止になります。
また、平成29年度の3月に道路交通法が改正され、75歳以上の運転者が一定の違反行為を起こした場合、免許の更新時でなくても臨時の認知機能検査を受けるように義務付けられました。
高齢者に対して、法律や制度がかなりピリピリとした態度をとるようになってきていることが分かりますね。
まぁでも、人間誰しも年を取れば頭も体も衰えてくるものです。
「自分はまだまだ若い!」と思っていても、知らず知らずのうちに視野は狭く、種々の判断力は軒並み下落していきます。運転自体に慣れているとしても、昔と比べて明らかに「事故を起こしやすい状態」になっているのです。
上記の面倒な手続きや講習は、そうした自分の「衰え」に気付き、悲惨な交通事故を未然に防ぐ役割があるわけです。
そして、その結果によっては、たとえ認知症でなくても「免許返納」を考えた方がいいケースも数多くあるでしょう。
しかし、今回私たちの講習を担当してくださった講師の方によると、多くの高齢者はそうした自分の衰えを認めず、日々多くの交通事故を起こしてしまっていると言います。
衰えは必ずやってくる
講師の方の話によれば、75歳以上の高齢者のほとんどは「認知機能」に衰えが生じていると言います。しかし、そうであるにもかかわらず、「自分はまだまだ大丈夫だ」と考えている人が多く、講習時に「あなたの運転には問題がありますよ」などと告げると、逆に文句を言ってくる人もいるのだそうです。
それを象徴するようなエピソード紹介してくださいました。
認知機能試験での驚愕エピソード
前に私が監督した認知機能試験なんてひどかったですよ。その試験では、15分間でバイクだとか女性のスカートだとかの16種類のイラストを覚えてもらって、その後で何が描かれていたか思いだして書きだしてもらうんです。
15分経って私が「覚えましたかー」と聞くと、「覚えましたー」という声が返ってきたので、イラストを隠して、早速どんなものがあったかを書いてもらおうとしたんです。
そうしたら、質問の手があちこちで上がる。その人たちの元に行くと、回答欄以前の氏名記入の欄で止まっていて、「私の名前って何でしたっけ?」なんてとんでもない質問が来たりするんですよ。
それってもう完全にアウトなんですよね。でも、彼らは免許が欲しいものですから、「妻の名前でもいいですか?」とか聞いてくる。いやいや、良いわけないでしょうって。
そこまで酷くない場合でも、イラストを思い出せないからって普通に周りの人の回答用紙をのぞき見したりする人がいっぱいいる。「カンニング辞めてくださいねー」って軽く注意しても、「いいじゃないの、細かいこと言わないで」なと返されちゃう。そんなことされたら、こちらとしては退出指示出すしかなくなっちゃうわけですよ。でもね、そこで覗き見した人の解答用紙も真っ白なんです。
別に悪口を言いたい訳ではないんですが、でも(一般論として)実際に年を取ると、もう判断とか行動だとかが右も左もなくなっちゃうんですよね。
――自動車免許更新法定講習での講師の話より
(実際の認知機能検査の問題はコチラから見られます)
この話をされている時、講師の方は、なんというかすごく辟易した様子でした。
まぁ、自分勝手な判断で動いてしまう、まるで子供の様な大人たちの相手をする大変さは推して知るべしって感じです。本当に。
認知機能試験を何とかパスした方は、次に約2時間の実車指導を受ける必要がありますが、そこでも困ったことが多いと講師の方は話されていました。続けて2つご紹介します。
実車指導での仰天エピソ-ド 1
認知機能試験終を終えたら、次は実際に車に乗って街に出るわけですよ。でね、それを1発でクリアできる人なんてまずいないんです。本人たちはやたら自信満々だったりするんですが、となりに座っている私はいつもヒヤヒヤしています。
高齢者に特に多いのが、口では「分かった、分かった」というのに、ちっともそれが出来ない人。
ある人は、最初に試験場を出るときに、私が「右折して出ていきましょう」と言って、「分かった」と返してくれたのに、いざそこに差し掛かるとハンドルを左に切ったんです。それを指摘したら、「まぁまぁ、ちょっと間違えただけじゃない」と軽い返事をされる。
同じ人が、今度は交差点の右折待ちをしてる時、私が「対向車途切れたら行きましょう」と言うと、また「分かった」と言われる。しかし、対向車が切れたと思った次の瞬間、何故かまた左折するんですよ。片道1車線で、右折待ちすると後続車を止めてしまう交差点だったんで、後ろにいた大型トラックからそりゃもう大きな抗議のクラクション鳴らされました。「今のとこ右って言いましたよね?」と注意しても、「あぁ、うるさいなぁ!ちょっと間違えただけでごちゃごちゃ言うなよ!」と逆に怒鳴られるんです。
本当に、高齢者には人の話を聞いていない人が本当に多いんですよ。
そして聞いていたとしても、認知と判断がそれに追いついていない。この人が顕著だったというのもありますが、大抵の高齢者は誰しもそうした能力が低下しているんです。
しかし、それを認めずに「運転なんて楽勝だ」と自信満々に語る人がとても多い。そしてそういう人ほど、事故を起こしやすいんです。
――自動車免許更新法定講習での講師の話より
実車指導での驚天動地エピソ-ド 2
あぁ、そうだ。もう一つ、実車指導で私が一番驚いた人の話をしましょう。
その人と一緒に車に乗っていた時、手を挙げて横断歩道を渡ろうとしているお母さんと子供さんが目に入ったんですね。ですから、「あそこに歩行者いるので、手前で止まってくださいね」と言ったんです。その人は素直に「分かってる」と返してくれました。
実際に横断歩道が近づくにつれて速度を落としてくれたんですが、完全に止まる前に何故かアクセルを思いっきり踏んで、急発進したんです。親子が既に渡り始めている横断歩道が目の前にあるにも関わらずですよ。
踏み間違えたのかなんなのか、本当になんでそんなことをしたのか分からりませんが、とにかく私はビックリして、反射的に補助ブレーキを踏みました。そのおかげか、幸い事故には至りませんでした。
「なんでいきなりアクセル踏んだんですか!目の前に歩行者がいるのに!衝突して死亡事故なんてことになったらどうするんですか!」と私は強めに注意したんですが、その時、その人なんて言ったと思います?
「うるさいなぁ。俺は保険に入ってるから金なら大丈夫だ」って言ったんですよ。
その言葉に、私ちょっとプチっと切れちゃいまして、「あなたは、目の前の命を金で買えるとでも思っているんですか!?」と大声で非難してしまったんです。
そしてら、そのあとの3時間、その人はむすっとして何もしゃべらなくなってしまいました。
本当にね、驚くことだらけですよ。こうした人が、今日もどこかの路上を走っているかもしれない。もちろん、全ての人がそうだなんてことはありませんよ。ただ、やはり問題のある方は多いんです。そして、繰り返しますが、別に高齢者の方の悪口を言いたいわけでもないんです。しかし実際、皆さん若い人たちの方が何百倍も素直で物分かりがいいというのも事実です。
道路にでたら、高齢者マークのついた車には特に注意を払ってください。これは差別でもなんでもなく、互いの安全を守り、少しでも事故を減らすための配慮です。どうかよろしくお願いします。
――自動車免許更新法定講習での講師の話より
……凄いですよね。
特に2つ目の話を聞いた時なんて、そんな人が現実にいるのかと思って、ぞっとしてしまいました。
年齢と共に注意力や判断力が低下するのは仕方ないことなのに、それを認めなかったり、指摘を無視したりすることが悲惨な事故につながるんだということが本当によく分かります。
この話をしてくれた講師の方は、高齢者の方々を嘲るでも馬鹿にするでもなく、ただただ切実な様子でお話をしてくださっていました。この問題が、それだけ深刻なものとして彼らを悩ませているのだということが強く伝わってくるような語り口でした。
しかし、高齢者の方々の気持ちを理解できないこともありません。自分が「衰えた」と認めるのは勇気の要ることですし、どこか惨めさを感じる行為ですから。
でも、それでも。
そうした意地やプライドが、誰かを死なせてしまう事故につながるかもしれない。自分の命を危険にさらしてしまうかもしれない。
そう思うと、「あなたの運転能力は低下していますよ」という声に「あー!うるさいうるさい!」と耳を貸さないままではダメだと思うんです。
もちろん、講師の方のお話にあったように、全ての高齢者の方々が奢り高ぶった考えの持ち主だということではありませんが、1つの傾向として、高齢者ドライバーにはそういった性質があるということは事実のようです。
以上が、私が免許更新の講習で聞いた衝撃的なお話の全容です。
そしてここからは、以上の話を踏まえたうえで、昨今の日本の交通事故事情を見ていこうと思います。
スポンサーリンク
高齢者と交通事故
今、世間では『高齢者の悲惨な自動車事故』が度々報道されています。
平成28年の3月には、群馬県で集団登校中の小学生の列に70歳の運転手(70歳代)の乗用車が突っ込んで男子児童が死亡した事故もありましたし、大阪では3年前に、「アクセルとブレーキを踏み間違えてコンビニに突っ込む」なんて事件もありました。
ここ10年で交通事故の件数自体は年々低下しているようなのですが、反対に、全体における高齢者の交通事故率は高まってきているようです。
警察庁交通局が公表している資料『平成28年における交通死亡事故について 』によれば、平成28年度の交通事故死亡者数は全体で3,904人となっており、そのうちの54.8%(2,138人)が65歳以上の高齢者となっています。
この54.8%という数字は過去最高の記録で、また、高齢者の人 口10万人当たりの死者数は全年齢層の2倍を超えているといいます。交通死亡事故で亡くなられた方の二人に一人が高齢者、というのが現在の状況なのです。
また、自動車乗車中の事故件数を見てみると、65歳以上では643件あり、これは全年齢の事故件数(1,338件)の48%と高い割合を記録しています。特に85歳以上の事故件数は、10年前(平成18年)の44件から、約2.7倍の117件にまで増加してしまっています。
このような数値が記録されるようなった背景には、日本の「超高齢化社会」が関わっているのでしょう。(認知機能や注意力の面から)「事故を起こしやすい高齢者」そのものが路上に多い、という交通事情を今の日本は抱えているわけです。
実際に、現在、65歳以上で運転免許を保有している人の数は約1,768万人で、これは運転免許保有者全体の21.5%に及びます。先ほどの死亡者数の情報と絡めれば、全ドライバーの内の約1/5の人達が、車乗車中の死亡事故の約半分を引き起こし、命を失っている、ということになります。
高齢者が車を運転するリスクは、とてつもなく高いのです。
自信ばかりが肥大して……
ここまで述べてきた事実があるにもかかわらず、多くの高齢者は「車を運転しない」、「免許を返納する」という選択肢を持ちえません。
そこには、先ほど述べたような自分の「衰え」を認めたくないという気持ちや、「惨めさ」を回避したいという気持ちが働いているのでしょうが、それ以上に、無根拠かつ傲り高ぶった自信があるのでしょう。
2017年3月にMS&AD基礎研究所が全国20代~80代の男女1000人に、「自動車運転と事故」をテーマとの行ったアンケート調査の結果では、なんと80歳以上の72.0%が「運転に自信あり」と回答したと言います。(どの年齢よりも高い数値)
確認しますが、高齢運転者は年齢が上がれば上がるほど認知機能や注意力が衰えていき、事故を起こしやすくなります。これは紛れもない事実であり、国立長寿医療研究センターからは、65歳以上の男性ドライバーの6割以上が中等度の認知障害を抱えているという報告も出ています。
にもかかわらず、ここまで多くの高齢者が「運転に自信がある」と応えているという事実には、酷い混乱を覚えます。
まとめ:それでも、あなたは車を運転しますか?
免許更新の講習会で聞いた話から始まって、ここまで「高齢者と自動車運転」について書いてきましたが、ここにきて私が感じたのは、自動車運転に対する大きな「恐怖」でした。
だって、事故を起こすリスクの高い人達が全体の1/5を占める道路に飛び込むのって、すごく怖いことじゃないですか?しかも、その人たちのほとんどは自分の運転に自信満々なんですよ。
これからも高齢者の比率が高まっていく社会が続いていくでしょうし、この不安は当分拭えそうにありません。
講師の方の言葉を借りれば、別に高齢者の方々に対して「悪口を言いたい訳じゃない」のです。さらに言えば、「高齢者から免許を取り上げろ!」と声高に叫びたい訳でもありません。
そうなれば、仕事に困る、車移動がデフォルトの田舎で暮らしていけない、年齢差別だ、なんて反論を受けるだけでしょう。
実際にそうした声を含む記事が、本日のYahoo!ニュースに掲載されていました。
この記事では、「認知症でも安全に運転できる」「『認知症=免許取り上げ』は乱暴」といった声や、「事故を起こす前に一律に運転をやめさせるなんておかしい」「車を失うことで、生活基盤や、仕事、楽しみ、自分らしく生きる権利を失うのはおかしい」という意見が見られました。
しかし、誰かの命を奪ってしまうかもしれない高いリスクを背負ってまで、私は車を運転しようとは思いません。
事故を起こしてからでは遅いのです。失った命は、いくら謝ろうが後悔しようが、決して戻ることはないのですから。
高齢者の免許の剥奪に
— シロネコ書房 (@shironeko_shobo) 2017年7月22日
「認知症でも安全運転できる!人権侵害!仕事や楽しみが無くなる!生きがいが失われる!」
と反論しつつ、しかしそこに「他者の安全」は含まれない。
なんという自己中心的な主張なんだろう。https://t.co/mFUsR3NTDE #Yahooニュース
もし、私が高齢者と呼ばれる時が来たら、私は免許を返納するか、身分証明書以上の使い方をしない様にしようと思います。
もともと車の運転が好きではないこともありますが、なにより、衰えた自分の運転で誰かを殺してしまうかもしれない、身内を殺してしまうかもしれないという不安が一番にあるからです。
日常ではあまり意識することもないかもしれませんが、車は高速で移動する金属の塊です。中の人間が少しでも操作を誤れば、それはたちまち「便利な移動手段」から「残忍な殺人マシーン」へと姿を変えます。
そんな機械を、老化して機能の衰えた脳で制御しきれるとは私はとても思えないのです。
まぁ、私がそこまで年を重ねるまでには、自動運転技術が標準装備された車がスタンダードになっているかもしれません。各種公共交通機関も、今よりかなり発展していることでしょう。
そうなれば、こうした問題もすっきり解決しますもんね。未来に期待です。
最近「年を取ってから運転中ヒヤリとすることが増えた」という方がいたら、可能な限りで構いませんから、車と自分の在り方を今一度考えてみてください。
「偉大な力には、偉大な責任が伴う」*1
そのことを、私たちはいつだって忘れてはいけないのです。
この記事が、全てのドライバーに何かの気付きをもたらすことを祈りつつ、今回はこの辺で。
ではでは、またまた。
*1:映画:スパイダーマンにおいて、主人公の父親が発した名言です。